【1万文字で解説】顧客の想いを引き出すヒアリングでWeb制作はもっとよくなる!
2023.07.25
田中 佳奈
こんにちは、キオミルのライター/コンテンツディレクターの田中です。 ライターの仕事をしていると、顧客に聞き取りを行うヒアリングという仕事に必ず直面します。 ヒアリングの質は、その後に行うWeb制作の質に大きく影響するためとても重要です。
今日は「顧客の想いを引き出すヒアリング」を行うための具体的な手法についてまとめていきたいと思います。
この記事は、
などに参考にしていただけると思います。 読んでいただけたら嬉しいです。
目次
まず簡単に、自己紹介をさせていただきます。私は大学卒業後、新卒で金融関連企業に就職し、法人営業を行っていました。だから、ライターになる前から顧客へのヒアリング経験がありました。
金融の営業担当者がヒアリングを行う主な目的は、顧客の業況伺いです。追加の資金ニーズや新たな商品サービスのニーズがないかを探るのと同時に、顧客の業況も探っていきます。要するに、「おたくの会社、今期も大丈夫だよね?」というのを、失礼がないように遠回しに探るのです(笑)
……と、業況次第でこちらの対応も変わるため、顧客の様子を伺うことがとにかく重要な仕事です。つまり、金融営業だったときは、ヒアリングをしてこちらの聞きたいことを聞き出すことがメインの仕事でした。
とはいえ、不躾に質問をしても答えてはもらえませんから、企業研究や業界研究をしてからヒアリングに臨んだり、コミュニケーションを大切にしたりという、基本的な流れはライターと同じです。
ライターになって一番違うと感じたのは、ライターの場合は「こちらの聞きたいことを聞き出すだけでは足りない」ということです。特にWeb制作の現場では、顧客の想いを引き出すヒアリングが求められると感じています。
ライターの場合は、「こちらの聞きたいことを聞き出すのでは足りない」と書きました。さらに言えば、「顧客の言いたいことを話してもらうだけでもまだ足りない」と感じています。私は、「顧客の隠れた想いを引き出すことで質の高いヒアリングが実現し、質の高いWeb制作が実現する」のではないかと考えています。
では、顧客の想いを引き出すとは具体的にどういうことなのか。
それは「あなたはなぜ働いているのか?」とか「この企業はなぜ社会に存在しているのか?」といった理念や価値観など、一人ひとりの想いに触れるところまで話を持っていくことです。
初対面かつ、たった1~2時間程度でそこまで話を持っていけるのか、疑問に思う方もいるかもしれません。しかし、下準備を行うことでヒアリングの質を高めることができます。
ヒアリングの時間は限られているため、既存のWebサイトや会社案内などすでに世の中に出ているものを読めば分かることは、基本的には聞きません。その背景や隠れた想い、具体的なエピソードなどを聞くことに時間を当てていきます。
もちろん、足りないと思ったときは追加でヒアリングさせてもらうよう依頼することもあります。ヒアリングの対象者を変えて再度実施することも。方法については後述しますが、Web制作のためにヒアリングをする際には顧客の想いを引き出せるまでヒアリングすると決めています。
理念や価値観といった領域にまで足を踏み入れ、顧客の想いを引き出すヒアリングを行うことで何が得られるのか?実は、企業の強み(独自優位性、USP)が明らかになるという大きなメリットがあります。
仮に、まったく同じサービスを提供するA社とB社があるとします。ユーザーはA社とB社のWebサイトを比較して、デザインがかっこいい方や使い勝手がいい方を選び、受注に繋がるかもしれません。
しかし、実際は「まったく同じ企業」なんてあり得ません。商品やサービスに違いがある場合はもちろん、もし同じ商材を扱っていたとしても顧客に対する営業姿勢や製作の方針、ビジネスのやり方や考え方などさまざまな違いがあるはずです。ただし、その違いがWebサイト上で表現されていなければ、ないのと同じです。
だからこそ、顧客の想いを引き出すヒアリングで、企業の隠れた強みを明らかにする必要があります。Webサイト制作においては、企業の強み(独自優位性、USP)を表現することが大切なのです。そして、ヒアリングで引き出した想いや強みをライティングで原稿に反映していけば、その企業にしかない魅力を、サイトを訪れた方に確実に伝えることができるのです。
ヒアリングをしても、顧客が思うように答えてくれない……そんなときは、質問の仕方が悪い可能性が高いです。たとえば、企業の強みをWebサイトに掲載しようと考えた際、「御社の強みは?」と、そのまま質問をしてもなかなか良い答えはもらえません。なぜなら、答えにくいからです。
個人に置き換えて考えてみましょう。初対面の人に「あなたの長所は?」「チャームポイントは?」「人から好かれる理由は?」と聞かれて、うまく答えられますか?
「特にありません」と謙遜したり、「顔かな」とか照れ隠しでボケてみたり。直接的な質問をしても、その人の本当の魅力を知ることはできません。つまり、この質問の仕方だとヒアリングしたい内容を得られないので失敗です。
企業に対してヒアリングを行っても、実は同じようなことが生じます。 そもそも顧客である企業の方たちは、自社の強みを認識できていないことが多いと感じます。 だから、そのまま「御社の強みは?」と聞いても、「うちなんて別に……」と、それで話が終わってしまいます。
また、少し言い方が悪いのですが、仮に顧客が答えてくださったとしても、いわゆる自己満足の答えだったりします。 顧客である企業がそのお客様から選ばれている理由は、実はまったく別だった…… ということがよくあるのです。
したがって、直接的な質問に対して出てきた答えは、あくまでも顧客側から見た答えだという認識の元、ヒアリングを通して顧客の真の答えを引き出すことが大切です。
いざ強みを聞き出そう、と息巻いたところで「ウチには誇れるほどの強みはありません」と困った顔をされたり、「後発なので『安かろう』なだけですよ」と書きにくい答えしか話してくれなかったりすることがよくあります。しかし、本当にこれといった強みはないのでしょうか?
強みが一つもない企業は存続すらできず、Web制作の相談をしに来ることもありません。
顧客側が認識していなくても、企業としていま存続しているのであれば、どんな企業にも強みはあるのです。 人には一人ひとり違った個性があるのと同じように、企業にも一社一社違った個性があります。 この個性を見つけて、見方を変えると企業独自の強みが見えてきます。
一見すると競合他社と同じように見えても、お客様対応や価格の決め方など、一つ一つの仕事のやり方を決めているのは人の「想い」なのです。だから、顧客の行動原理に共通する価値観を明らかにしていくことで、絶対に他社と違う部分を見つけることができます。
そのために、顧客の想いを引き出すヒアリングでは、
というように企業の在り方を突き詰めて聞いていきます。そして、「なぜですか?」と掘り下げながら、「あぁ、この企業ってイイな。素敵だな」と聞き手が共感できるところまでたどり着くことが大切です。そこまでたどり着ければ、あとはWebサイトの中で表現するだけです。
私が顧客の想いを引き出すヒアリングをしてからWeb制作をすべきだと考えている理由は2つあります。
サイトから問い合わせをする/資料請求をするといったコンバージョンを獲得するためには、サイトを訪問した方の興味・関心を引くだけでなく、共感を得ることが大切です。
ものすごく簡単に言うと、そのWebサイトを見てユーザーに「イイな」と思ってもらわなければいけないのです。
たとえば、コーポレートサイトの場合「A事業、B事業、C事業を行っています」という情報だけを掲載した場合、目にした方は「ふーん」と思うだけですよね。
BtoB向けサイトと言えども、基本的には一消費者が商品を買うかどうかの意思決定をする際の思考パターンと同じです。イイなと思わないと、選べないですよね。
実は、よくあるBtoBのコーポレートサイトの多くはあくまでも自社の紹介に留まっており、ユーザーに「イイな」と思わせるところまでたどり着いていないのです。
など、サイトを読んでこのような思いを抱いてもらえれば、「イイな」と感じてくれます。
だから、「顧客の想いを引き出すヒアリング」をしてコンテンツで企業独自の強み(USP)を表現し、顧客のサイトを訪れるユーザーに「イイな」と思わせるところまで持っていくと、結果につながるのです。
顧客の想いを引き出すヒアリングをすべき重要な理由はもう一つあります。それは、顧客満足に繋がるからです。
顧客の想いを引き出すヒアリングに成功すると、次のような反応をいただけます。
「まさに、私が言いたかったのはそれです!」
「すごい、感動しました……」
「うちの社員より弊社のことを分かっているなと驚きました!」
顧客が期待しているのは、ただ単にサイトを見れば事業内容と会社概要が分かるというレベルのWebサイト制作ではありません。サイトを通じてその企業らしさを発信し、目にした人に魅力を感じてもらいたいのです。
ここからは、実際に「顧客の思いを引き出すヒアリング」を行うために私がやっている4つの下準備を紹介します。ヒアリング前の準備を怠ると、ヒアリングの質が低下してしまいます。顧客に語ってもらう数少ないチャンスを逃してしまわないよう、しっかりと準備することをオススメします。
まず最初に始めたいのが、3つのCについて知っておくことです。
3C分析はマーケティングでよく使う用語です。Web制作時における言葉の定義を簡単にまとめます。
Customer:顧客
Web制作の場合は、サイトを制作する顧客そのものではなく、顧客にとってのお客様、顧客のサイトを訪問するユーザーを指します。Webサイトでリードを獲得し売上に繋げたいターゲットのことです。
Competitor:競合
Web制作の場合は、ネット上の競合もリアルの競合も、間接競合も含めて広く考慮します。
Company:自社
Web制作の場合は、Web制作を依頼してくださった顧客そのものを指します。
これらの情報を集めるのに一番手っ取り早いのは、やはりネットです。既存のサイトがある場合はサイトを見るのはもちろん、顧客の社名で検索することで求人サイトや見積もり一括サイト等の情報が探せます。さらに、代表者名で検索してSNSを見たり、親会社・子会社や取引先などについてもひと通り調べたりしておくのがおすすめです。
ちなみに、私の場合は顧客の社長だけでなく担当者のフルネームが分かったら、名前でも全員分検索します。求人サイトで先輩社員として登場していたり、ブログなどで情報発信をしていたりするケースもあるので、そこから話が広がることもあります。なにより、顧客のことを「もっと知りたい」と常に思っているので、私にとって下調べの時間はとても楽しくワクワクする時間でもあります。
3C分析で競合については調べますが、さらに詳しく「競合サイトに掲載されているコンテンツにはどんな内容があるか?」を調べます。
……など、できあがったサイトに掲載する内容をイメージするために、競合他社のサイトを見ていきます。
必要以上に真似をしたり、内容を合わせたりすることはありませんが、必須項目を漏らさないようにするためにも競合サイトの調査は絶対に必要です。
顧客にインタビューする質問事項を作ります。特に重要なのは、質問だけではなくその回答についても、自分で想定して書き出してみることが大切です。これが実は……結構な確率で外れます(笑)
顧客からの回答を想定することは、「この業界って普通はこう」という自分の中にある固定観念に気づくことにも繋がります。そして、先方から出た意外な答えは、その企業の独自性や価値観に繋がっていることも。先入観を持つのではなく、顧客のことを詳しく知るためにこちらであれこれ予想をしておくことは、とても大事な作業です。
ディレクターがすでに顧客と接点を持っている場合や、既存の取引がある場合は、社内の担当者から顧客に関する情報を事前にもらっておきます。ネット検索での結果は、あくまでも予想の材料でしかありません。すでに商談を経ている場合は生の情報の優先度が高いので、ヒアリング前に必ず確認するようにしています。
次に、実際にヒアリングをする際に私が心がけている6つのポイントをご紹介します。
顧客はお時間のない中でヒアリングの機会を取ってくださっている、ということを常に意識しています。そのうえで、顧客の時間を無駄にしないよう、用意した質問事項をもとに集中してヒアリングを行っていきます。
また、業界の専門知識などは顧客から教えていただくことで質の高いライティングが実現できるため、教えていただく姿勢を大切にしています。どんなに一生懸命事前準備をしていても、ヒアリング中に意味の分からない内容や知らない単語が出てきてしまうことは避けられません。そこで、分からないと思ったときはその場ですぐ質問するようにしています。知ったかぶりをしたり、分からないことを隠したりせず、「より良い制作のためにどうか教えていただきたい」という真摯な態度を心がけています。
(余談ですが、顧客の時間を大切にするためにベストコンディションで臨みたいので、ヒアリングの時間は絶対におなかが空かないようにしています。糖が足りないことでイライラしたり、頭が上手く働かなかったりして時間をムダにしたくない!……という大義名分のもと、間食を取っています。)
私が確信していること、それはすべての企業には、ほかにはない魅力が必ずあるということです。起業後10年以内に9割の企業が倒産するといわれることもありますが、どんな業界においても、「お客様から求められる存在だからこそ、その企業は今日まで事業を継続できている」ということは間違いありません。
そのため、
と、私はいつでも興味津々です。ニッチな業界のヒアリングも、競合がひしめき合うレッドオーシャンで生き抜いてきた企業のヒアリングも幸せです。代表インタビューも大好物で「こんな素敵な会社を一体どうやって創ったの?どう率いてきたの?」と質問攻めにしたくて仕方ありません。
ヒアリングの時間をまずは自分が主体的に楽しむ、というのも私が心がけている(というか自然とできている)ことです。
柔軟な姿勢も常に心がけています。たとえば、質問事項をたくさん作って準備しますが、実際には用意した質問の半分も使わないこともあります。2割しか使わなかったこともあります!それはある意味、十分すぎるほど準備を行っているということでもあります。
想定していなかった方向に話が飛んだり、思わぬ情報を得られたりすることもあるので、ライブ感を楽しみ、話の流れを誘導しすぎないようにしています。もちろん、ヒアリングをしていて「思ってたんと違う!」と思ったときは素直にそれを伝えています。
業界について事前に勉強してきたことを悪く思う人はいませんし、「うちはこうだから、業界のほかの会社とは違うんだよ!」という話を引き出すチャンスにも繋がります。だから、用意周到に準備はするけど、決めすぎないことがヒアリングを成功させるコツだと考えています。
ヒアリングもコミュニケーションであり、人と人との会話です。決めすぎず柔軟に楽しく行うことで会話も活性化し、良い雰囲気を創り出すことができます。
……なんて言ってはいますが、正直なところ、私も最初はガチガチに緊張していることが多いです(笑)でもそれは、この機会を逃さずいろいろ聞いて丸裸にしたい!もっと顧客のことを知りたい!もっと顧客のことを好きになりたい!と、集中しているからこそ。
しっかりと準備して、こちらが高いモチベーションで臨んでいれば顧客も心を開いてくださるので、心地よい緊張感でやっています。
事前準備をしっかりと行い、ヒアリング当日も業界用語や既存サイト等で顧客が日頃から使っている言葉を自分も使うようにしています。勉強してきたという姿勢は喜んでもらえますし、お互いの意思疎通をスムーズに図るためにも顧客に合わせた言葉を使うことは重要です。
執筆前から顧客のよく使う言葉を意識しておけば、執筆時の表記揺れも起きにくくなります。また、こだわって使っている言葉の中に顧客の価値観が反映されていることもよくあります。
たとえば、似たような意味を表す言葉でも、微妙にニュアンスが異なります。
顧客が発する言葉には何らかの意味があることがあります。可能なかぎり顧客の言葉を拾って、同じものを使う。そして、何かこだわりがありそうなときはそこを深掘りする。これを繰り返していると、顧客の価値観を正しく理解することに繋がります。
似たような質問でも、顧客の様子や自分が聞きたいことに合わせて聞き方を微妙に変えるようにしています。たとえば、
「企業の強みは?」「(あなたが)他社に負けないと思うことは?」→顧客側から見た情報を聞き取ることができます。
「お客様からはよくどんな声をもらいますか?」→顧客にとってのお客様、つまりサイトを訪問するユーザー側から見た評価を聞き取ることができます。
「twitterで〇〇とつぶやいてる利用者の方がいましたが、こういうことってよくあるんですか?」→世間の声を下調べをしておくことで、そこから深掘りすることができます。
「他社との違いはなんですか?」→顧客が思う他社との違いが分かります。
「お客様から意外だと思われることや、驚かれることってありますか?」→顧客にとってのお客様から見た差別化ポイントが分かります。
「業界では××する~という企業が多いようですが…」→下調べしておいた業界あるあるについて話して、反応を見ることができます。思わぬ差別化要因が見つかることも。
下調べである程度答えを想定しながら、どう話を振ったら顧客にとって話がしやすいか?どうすれば狙った内容が引き出せるか?を意識して、ヒアリングをしています。
ヒアリングの際は、顧客流のビジネスのやり方や考え方など、新たなお話を伺うたびに自分なりの発見があります。そこで終わらせず、内容をきちんと理解して、共感できるところまでヒアリングをするようにしています。つまり、発見→理解→共感をワンセットと考えています。
たとえば、製品サービスの特徴はもちろん、価格やサービス提供の流れなど、ちょっとした決まりごとに企業独自の考え方が反映されていることがあります。また、社名やサービス名などの由来にこだわりが詰まっていることもあります。「なぜ?」「どうして?」と掘り下げ、ライター自身が「あぁ、だからこうなんだ、素敵!」と腹落ちして惚れこむことができるように、質問し倒すことが大事だと思っています。
最後に、顧客の想いを引き出すヒアリングができている状態と、できていない状態を可視化したいと思います。
たとえば、顧客が営業方針として「ウチは絶対に初回値引きをしない」と言ったとします。
顧客の想いを引き出すヒアリングができていない場合は、一方的に「ちょっとケチに感じるなあ。それで大口を逃したらもったいないのにな」と反論する気持ちを持ってしまったり、「過去に初回値引きをしたら、その後に取引が続かなくて大損したイヤな思い出でもあるのかな」と勝手な想像を膨らませたり、「なるほど、『品質に自信があるからこそ、安物に見られたくない』という考えかな。この業界ってこういうパターンよくあるよね」と勝手に決めつけたりして、そこでヒアリングを終わらせてしまうことも。
終始自分のものさしで物事を見ることに留まっており、顧客がなぜそういうスタンスを取るようになったのかまで考えられていない例です。これでは、顧客の想いに興味を持って寄り添う気持ちがないために深い話ができません。
フラットな気持ちで顧客のことを知りたいと思えば、「なぜですか?」と、その先を掘り下げて質問がしたくなるはずです。「ウチは絶対に初回値引きをしない」と言われた後の、ヒアリングの様子を見てみましょう。
企業担当者 「いやぁだって意味ないでしょ、あんまり」
ライター 「初回値引きって意味がないんですか?買い手としては嬉しいと思ったのですが」
企業担当者 「ウチはもともと最低価格で出しているしね」
ライター 「なるほど、それで初回値引きをしてしまうと正直苦しい、と?」
企業担当者 「苦しいというか……だって意味ないよ?無理な初回値引きする会社は、だいたいお客さんのこと考えてない」
ライター 「えっ、そうなんですか?」
企業担当者 「仕事柄、無理な値引きをすると工期が短くなって品質が低下することがあるし。あと、のち のちほかで価格転嫁したりね。 お客さんは最初の見積もりの金額だけを見てホクホクしているけど、結局リスクがあるだけ。 なんの得にもなんないよ」
ライター 「なるほど!では、御社はお客様のためを思って初回値引きはされない方針なんですね!」
企業担当者 「その代わりといっちゃ何だけど、2回目からはウチは頑張るよ」
ライター 「お得意様値引きがあるんですか?」
企業担当者 「いやぁ、お得意様っていうかね、2回目からはお客さんの仕様データを蓄積できるから、本当に効率化が図れるわけ。だから正当な値引きが実現するんだよ」
ここまでヒアリングができれば、初回値引きをしない本当の理由が分かります。優れた技術に自信があり、品質の維持にこだわりを持っている。そして、お客様を第一に考えた結果、最初から最低価格を提示したうえで無理な値引きはしない。また、複数回取引いただくことで効率化が図れるため、継続的な取引には値引きが実現する……
顧客の価値観や考え方をここまで知ることができると、「あぁ、とても誠実な企業なんだな」という印象を持つことができると思います。こういったちょっとした企業の姿勢も独自の強みであり、差別化の要因となります。
ちょっとした違いを見つけたとき、常に掘り下げて、共感できるところまで「なんで?」と理由を聞くクセをつけると、顧客を深く理解することができます。
発見→理解→共感の積み重ねによって顧客独自のものの見方や考え方を知ることができ、それを反映した質の高いWebサイトを制作することができるのです。
私にとってヒアリングは顧客のことを深く知り、惚れこむまでのステップです。そして、顧客の想いを引き出すヒアリングをしようと日々心がけていると、顧客独自の良さがどんどん明らかになり、惚れっぽい私はすぐ顧客のことが大好きになります(笑)
「あぁ、この企業って、なんて素敵!」と心の底から思えたら、あとはそれを原稿に起こして、サイトを目にした方のことも惚れさせてしまえばよいので、そんなに難しいことではありません。
とはいえ、「ヒアリングって難しい、何を聞いたらいいのか分からない、すぐテンパってしまう」という気持ちもとてもよく分かります。私自身、この記事では「楽しんでやっています」と書いているものの、実際には毎回緊張しているし、「もし上手くいかなかったら……」と、不安に思うことも数知れず。
それでも、万全の下準備とちょっとした心構えをしておくことで、ずいぶんと落ち着いて取り組めるようになりました。
ヒアリングはこうすれば100点という答えがないので、とても難しく感じると思います。だからこそ、ヒアリング対象である顧客の中に「好き!」「惚れた!」「推せる!」というポイントを何か一つでも見つけられたら、めっけもん!という気持ちで、多くの方にヒアリングを楽しんでいただけたらいいなと思っています。
この記事の執筆者
田中 佳奈
1984年生まれ。千葉県出身。金融業界にて法人営業に従事した後、得意だった文章の力を使って企業支援がしたいとライターに転身。制作会社でのライター経験を経て、キオミルに入社。企業の見えないウリや世の中の見えないコトを言語化し、可視化するライティングの世界に日々面白みを感じている。二児の母。
この記事の編集者
水島 なぎ
1985年生まれ。福井県出身。「書く・編む・正す ことばのよろず屋」を掲げる、フリーランスのライター・編集者・校正者。実用書系出版社の企画編集者として培った編集スキルやディレクションスキルを生かし、紙媒体やWebなど幅広い分野で活動中。正しい日本語、読みやすい日本語、誤解されにくい日本語への提案が得意。
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