カルチャー

業界・実務未経験のフリーランスの方へ

2024.03.29

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椿坂 泰志

こんにちは。キオミル株式会社代表取締役の椿坂です。

キオミルの問い合わせフォームからは毎日1~5通程度、毎日同じような業界未経験のフリーランスの方から営業メールが送られてきます。

送られてくるメッセージの内容は、みなさま多少の違いはあれど、著しく似通ったフォーマットを用いて送られてきます。おそらくなんらかのスクールやインフルエンサーが教育している、あるいは影響を及ぼしているものと予想しています。

正直に申し上げますと、最近は売り込みメールを読んですらいません。同じような内容のメールが山ほど届くので、読んでもキリがないからです。

はじめは無視すればいいと思っていました。しかし、最近になってもやまない売り込みメールを受けて、徐々に「ホントにこの業界は大丈夫だろうか? この人たちは大丈夫なんだろうか?」と不安になり、このブログ執筆に踏み切りました。

このブログを執筆したのは、今Web制作業界に大増殖している「未経験フリーランス」の方に対する警鐘と提案になればと考えたからです。また、あらかじめ明確にしておきますが、未経験フリーランスの方でも現状うまくいっている方や、充実したWeb制作ライフを送っている方もいらっしゃると思います。

成功するか否かは「人による」ところもあるでしょう。うまくいっている方は素晴らしいと思います。

この記事では、そういった方を批判する意図はございません。
あくまで未経験でフリーランスになることに対して違和感が生じている方に向けたメッセージになります。予めご了承ください。

まずは素直に尊敬の念を示します。

フリーランスは、己のスキルや経験を武器にして生きていく厳しい世界だと思います。

何らかのご職業に就かれていた方や学生の方が、Web業界のフリーランスとして生きていく道を選ばれた。まずは、この厳しい世界に挑戦しようと飛び込む行動力に尊敬の念を示します。

私たちが業界未経験のフリーランスの方とお取引することはありません。

はじめに結論を申し上げておきますと、私たちキオミルは業界未経験のフリーランスの方と仕事をすることはありません。フォームからご連絡を検討されていた方は誠に申し訳ございません。

以下の文章をご一読いただければ、その理由をご理解いただけるかと思います。

冷静に客観的な立場になって考えてみてください。

あなたは今、メールフォームから必死にご自身を売り込まれていると思います。ここで一度冷静になり、相手方の立場になって考えてみてください。

あなたは大雑把に言えば、
「Web制作会社で働いたことはありませんが、Web制作をさせてください」
と売り込みをされています。

やや極端ですが、分かりやすい業界に置き換えると、
「大工として働いたことはありませんが、家を建てさせてください」
と言っているに等しいお願いです。

あなたがもし、お客様や元請け会社であった場合、このようなお願いを聞き入れることはできますか?一般的な感覚の持ち主であれば、大工として働いたことのない方に家を建ててもらうなんて、まず依頼はできないでしょう。

下請けとして起用する場合も同じです。私たちは100%顧客との直接取引をしていますが、私たちが顧客から請け負った業務を「業界未経験のフリーランスに下請けに出しています」と言ったら、顧客はどう思うでしょうか?

漠然と不安に思うでしょうし、場合によっては信頼を損なうでしょう。だから、私たちは実力が未知数な業界未経験のフリーランスの方をむやみに起用することはできないのです。あなたが売り込もうとしている営業活動先の企業は、このような立場や状況にあるという点をご理解いただくといいかもしれません。

貴重な若手の時間を切り売りしていませんか?

未経験フリーランスの方の売り込み内容は、そのほとんどが「コーディングをします」「デザインをします」といった、仕様や要求、ゴールが比較的明確な業務の下請けです。

これらの業務はもちろん、Web制作のプロジェクトの中でも大切な業務です。しかし、これらの業務はディレクターやアートディレクターが要求事項を固めており、指示に従い制作するのがほとんどで、さほど思案や思考を必要としない場合が多いのも事実です。

誤解を恐れずに申し上げると、このような業務の大部分は「代わりが効く業務」であるといえます。Web制作業界に限らず、指示されたことをただこなす作業者よりも、戦略や企画などに頭を使える人材の方が市場価値も報酬も高くなっています。

また、もともとは作業者であっても、大規模なプロジェクトやチャレンジングな案件に携わって技術者やマネジメントとして大成するケースもあります。もちろん、最初からこのような人材になるのは難しいでしょう。企画や戦略に強い組織に身を置き、舞い込む業務に関わって、経験を経て少しずつ実力をつけていくものです。

一方、組織に入らず、付加価値の低い業務だけが武器のフリーランスとして独立するのは、「時間切り売りの労働者として働き続ける」ことを意味します。

もちろん、フリーランスでもチャレンジングな業務がないわけではありません。しかし、組織に比べれば圧倒的に少ないのが実情です。特に未経験フリーランスの方は、元請けに対して下請けとして売り込んでいる以上、元請け側の企業は「作業者」としか見ていないことの方が多いはずです。

もっと言ってしまえば、「安いから未経験フリーランスを使っている」と言っても過言ではないでしょう。都合よく使える作業者に、思案が必要な企画などの業務を割り振る企業は極めて稀です。

つまり、未経験のまま安易にフリーランスとして独立し、下請けとして働くことは、「成長できる現場やプロジェクト」から遠ざかってしまう要因でもあるのです。特に、新卒や若手社員はある意味、組織の中でも失敗が許される社会人としてのボーナス期間といえます。

この貴重な経験を積める期間を捨て、単純作業の労働者フリーランスとして時間を切り売りし、対価として一時的な自由と金銭を受け取る。生涯を通じた収入や仕事人としての成長を考えると、「未経験フリーランスは、はたして良い選択なのか?」と思えてならないのです。

繰り返しますが、未経験でフリーランスとして独立すること自体を否定しているわけではありません。貴重な機会を逃していないか、生涯収入やスキルの成長まで考えられているのか、勝手ながら心配しているのです。

あなたが「フリーランスとして働く理由」は何ですか?

そもそも、あなたはなぜ業界未経験でフリーランスになろうと思ったのでしょうか?あくまで私の憶測ですが、以下のようなコピーが掲載された広告の類がきっかけではありませんか?

  • 時間や場所に捉われない
  • 好きな場所で好きな時間に
  • 〇か月で月収〇〇万円

もちろん、これらがすべて悪いというわけではありません。子育て中の方を筆頭に、リモートで働けるというのは魅力的です。しかし、不思議なことに私たちに売り込みメールを送ってこられる未経験フリーランスの方には、子育てや家族の転勤など「やむを得ない事情」がある方はほとんどいません。(売り込みのメールではそこまでの事情を書かないのか、あるいは定型文を使っているのかは分かりませんが)

あとは、単純に「出社したくない」「旅をしながら働きたい」などの理由で、フリーランスという生き方に憧れているケースもあると耳にします。

その一方で、例えば、

  • デザインが好き
  • プログラミングが好き
  • Webサイトが好き
  • 顧客の役に立ちたい
  • 〇〇を変えたい
  • 〇〇を助けたい

このような動機で未経験フリーランスになった方を目にすることはほとんどありません。未経験フリーランスの方が求めているような「自由な働き方」は、Web制作業界でできないわけではありません。しかし、いずれもこの業界で働くうえでごく表層的な部分でしかなく、本質的な部分ではありません。

私たちの仕事は、たしかに遠隔でも実施できます。しかしながら、現実は顧客の事業理解のために現地取材にも赴きますし、対話を繰り返し、泥臭く粘り強い姿勢で取り組む仕事も数多くございます。「100%オンラインで完結」させることももちろんできます。キオミルでもコロナ禍を契機に、そのようなスタイルでの納品もたくさんしてきました。とはいえ、オフラインの重要性もクリアになり、顧客からのニーズも高くなってきたこの時代で、もはや「好きな時に好きな場所で働ける」などという働き方のメリットを、積極的には発せません。

このような時代にあって、Web制作業界で働く動機が勤務体系や自己のライフスタイル実現という方が、矢印が完全に内側に向いている状態で本当に長くこの世界で戦っていけるのか、この業界で活躍できる人物になれるのかという点は、非常に疑問です。(少なくとも私は、自己のライフスタイル実現が前面に出ている方でスゴイ方を見たことはありません。)

ちなみに、2022年ごろに私たちに売り込んできた方のポートフォリオサイトやサービスサイトを拝見しなおしましたが、その多くはすでにサーバやサイトが閉鎖されていました。もしかしたらそういう方たちは、スクールの甘い言葉に惑わされてフリーランスになってしまった方たちだったのかもしれません。

だからこそ、これからWeb制作業界でやっていこうと考えている方には今一度、
「本当にやりたいことなのか?」
「本当にこの業界で長くやっていくつもりなのか?」
という点を自問自答いただいてもいいのかなと思います。

なお、あらかじめ明確にしておきますと、私は未経験でフリーランスとして送り出すようなスクールを完全否定するわけではありません。実際にスクールを卒業してフリーランスとして成功されている方もいるでしょうし、スクールがきっかけでこの仕事を知り、好きになった方もいるでしょう。

あくまで私の憶測ですが、スクール側にも利益を上げるなどのやむを得ない事情があり、おそらくライフスタイル系のコピーやメッセージは反響が良いのでしょう。このような事情から、受講者側も業界の表層的な部分のみを汲み取ってしまい、中途半端な参入者を生み出してしまっているのではないでしょうか。

チームで働く良さを考えたことはありますか?

Web制作は多くの場合、複数人で行われます。1人では作れないものを、いろんなスキルを持つメンバーと一緒に作りあげ、顧客に喜んでもらう。難度の高い案件や障壁があっても、チームのみんなで知恵を出し合って乗り越える。そして、プロジェクト完了後は「次はこうしたいね」と話しながら、また同じ組織のメンバーと作り続ける。制作だけでなく、時には社内勉強会などを実施し、お互いのスキルを高め合う。

チームで働くと、このようなことができます。

Web制作にはこのような楽しさや醍醐味があることを、未経験のフリーランスでやってきた方はご存知ないかもしれませんね。スクールではチーム課題があったかもしれませんが、ごく限られた期間で経験できるチーム制作では、到底楽しさを感じられるレベルではないと予想しています。

チームで働く楽しさを感じられない下請けとして制作に関わり、ただただ納期に間に合うように手を動かすだけのプロジェクトは辛くないでしょうか。もちろん、人にもよるでしょうし、外部パートナーでありながら元請けのチームとして活躍している人もいるでしょう。しかし、未経験フリーランスの大半の方は「仕事は一人で行うもの」と思いこんでいるのではないでしょうか。

AI時代のことは考えられていますか?

もう一つ忘れてはいけないのが、AIの存在です。現実問題として、AIの存在はWeb制作業界でも無視できなくなってきました。AIはゴールが明確な業務や、多量なデータの中から答えや統計を導き出すような業務において、凄まじい力を発揮します。

勘の良い方はもうお分かりだと思います。今、未経験フリーランスの方が売り込む武器として使われている

  • 単調なコーディング
  • 指示アリベースのデザイン

これらは、今後AIに淘汰される可能性が極めて高いといえます。つまり、今のまま指示ありきの単調な制作業務だけでは、近い将来AIに代替されてしまう可能性が高いのです。

今後、Web制作業界で生き残るには、アイデアやクリエイティブの創出、戦略の策定、顧客との関係構築、複雑なコミュニケーションが必要なディレクションやマネジメント、さらにはAIそのものを操作する仕事など、「AIにはできないこと」を磨いていかなければなりません。

ここまで読んでいただきありがとうございました。

フリーランスとして働き続けるのは大変です。私がこの記事を通してお伝えした提案や指摘は一つの考え方でしかありませんが、今後のあなたのフリーランス活動のヒントになれば幸いでございます。

この記事の執筆者

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椿坂 泰志

1988年生まれ。福井県出身。キオミル株式会社代表取締役。大学卒業後に都内Web制作会社に入社。2018年の退職までに300社以上のWebサイトをディレクション。2018年9月にキオミル株式会社を設立。得意領域はBtoBマーケティング、Webディレクション、プロジェクトマネジメント、法人営業、組織マネジメント。
「小さくても強くて優しい組織」を目指して、苦悩しつつも前向きに会社を経営中。淡水魚とサメと旅行が好き。

運営中のWebサイト

この記事の編集者

水島 なぎ

水島 なぎ

1985年生まれ。福井県出身。「書く・編む・正す ことばのよろず屋」を掲げる、フリーランスのライター・編集者・校正者。実用書系出版社の企画編集者として培った編集スキルやディレクションスキルを生かし、紙媒体やWebなど幅広い分野で活動中。正しい日本語、読みやすい日本語、誤解されにくい日本語への提案が得意。

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